5年ぐらい前に、経産省が情報大航海プロジェクトってのを立ち上げたのが結構ニュースになってたので、聞き覚えのある人も多いんじゃないかと思います。和製Googleだとか、Googleを倒すだとか、威勢の良い事を言ってたような気もするけど、結局あれ、どうなったんだろう?ってことで、気になったので調べてみました。
適当にググって調べただけなので、「これが抜けてるよ!」とかあれば教えてもらえると嬉しいです。
開発実施企業について
情報大航海プロジェクトでは、開発および実証を行う企業を公募して、採択された企業が開発と実証を行うという体制だったようです。まるで情報処理推進機構がやってる未踏ソフトウェアみたいですね。
平成19年度の先端事業による実証、平成20年度の先端事業による実証、平成21年度の先端事業による実証というWebページによると、下記の企業によって実証が行われています。
- 沖電気工業株式会社 「ラダリング型検索サービス」
- チームラボ株式会社 「サグールTV」
- 株式会社データクラフト 「Viewサーチ北海道」
- 財団法人国際医学情報センター 「すこやかライフサポートサービス」
- 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ 「時空間情報マイニングサービス」
- 株式会社モバイルジャッジ 「メガリサーチ」
- 株式会社日本航空インターナショナル 「新総合安全運航支援システム」
- 株式会社ブログウォッチャー 「プロファイルパスポート」
- 東京急行電鉄株式会社 「交通系非接触式ICカードを利用した連携サービス」
- 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ 「マイライフアシストサービス」
- 株式会社キューデンインフォコム 「次世代解析技術を活用した携帯情報端末等による情報循環方式の健康管理」
- 株式会社角川マーケティング 「多言語対応動画アプリケーションプラットフォーム」
- 株式会社エス・ピー・シー 「地域活性化を支えるe空間サービス ーぷらっとplatー」
- 株式会社ジー・サーチ 「「ここなら」コミュニケーションサービス」
- メディアラグ株式会社 「異業種連携IDによる流通サービス」
開発されたサービスの概要
プロジェクト期間中、上記企業によって様々な技術開発が行われ、実証が行われた。それぞれどんなものか調べてみたので、簡単に概要を紹介します。
沖電気工業株式会社「ラダリング型検索サービス」
ラダサーチ(対話型検索サービス)によると、株式会社リクルートと共同でラダリング型検索サービス「ラダサーチ」の開発を行っていた。Webサイトの説明によると、
カウンセリングやマーケティングでよく使われる「ラダリング」という手法を使い、会話を繰り返していくことで、物事の捉え方を深く掘り下げていく、新しいタイプの検索手法です。 今回、この検索手法の実証実験のために、転職情報の検索をご体験いただくサイトを開設いたしました。 自分自身の転職の意志や、自分の強みや価値観を整理して、その上で、本当にフィットする求人に出会う体験をすることで、自分でも気づかなかった自分自身の価値に気づくことができるかもしれません。
とのこと。残念ながらラダサーチの実験は終わってしまったようだ。
2011/9/6 追記 このエントリのコメント欄にて下記のコメントを頂きました。私の調査不足だったようです。すみません。
OKIのサイトに記載できていないのですが、ラダリング型検索サービス「ラダサーチ」は、現在リクルート様の住宅情報サイト Suumo で、「住みかえ診断サービス」 http://shindan.suumo.jp/shindan/top.html で使っていただいております。これからも少しずつ普及に向けて活動していく予定です。
チームラボ株式会社「サグールTV」
世界中の“オモロい”動画を検索、連続再生できる「サグールテレビ」によると、チームラボ株式会社はサグールTVと言うWebサイトをリリースしている。
キーワードを入力することで、「YouTube」「Google Video」「Ameba Vision」など60以上の動画共有サイトの動画を検索できる。検索結果では、“オモロジック”の度数が高い順番に動画を表示する。同社によれば、オモロジックは「主観的な興味が強く注がれている動画の順番」としているが、具体的な判定基準は非公開という。 動画に対しては、インターネット上から評判情報を収集し、検索用メタデータを付与した。これによって、各動画共有サイトの関連タグに加えて、ブログや掲示板などで評価されているキーワードからも動画を検索することが可能となった。 また、「再生待ち動画」機能では、動画のサムネイル画像をドラッグ&ドロップすれば、視聴中の動画が終了後に次の動画が自動再生される。このため、テレビのように動画を流し見することができるという。そのほか、検索結果や視聴中の動画に関連性の高い動画を紹介する機能などを備える。
こちらのサイトは、実証実験終了後も利用することが出来る。さすがはチームラボ、と思ってしまった。
株式会社データクラフト株式会社「Viewサーチ北海道」
北海道の風景写真2万点を直感的に検索できる「Viewサーチ北海道」によると、
Viewサーチ北海道は、経済産業省の2007年度情報大航海プロジェクトの採択事業の研究成果である、文字に頼らない次世代画像検索技術「ビジュアル・コンテクスト・サーチ」を応用した実証実験サイト。キーワード入力による検索ではなく、似た特徴を持つ画像をグループ化して表示することで、ユーザーが直感的に求める画像を検索できるようにしている。 Viewサーチ北海道では、この技術を利用して、写真家27人による約20,000点の風景写真を、散歩を楽しむような感覚で表示、検索する。トップページには、20,000枚の写真から代表的な特徴を持つ画像200枚程度が、3次元空間に配置される。この中から気になる画像を選択すると、そのグループに含まれる画像が2次元マップにさらにクラスタリング表示される。色調などの特徴が似ている画像がグループ化されており、一度に多数の画像を見ながら直感的に探したい画像を検索できる点が特徴となっている。
とのこと。残念ながらWebサイトは閉鎖されている。
財団法人国際医学情報センター 「すこやかライフサポートサービス」
あまり情報を見つけることが出来なかったんだけど、RFIDの次のステップ、集めた情報をどう生かすのかによると、
情報家電やセンサーから得られるヘルスケア情報を集めて、健康増進や在宅介護に役立てる「すこやかライフサポートサービス」を研究している。2008年には、沖縄県金武町などで実証実験を行う予定だ。 ヘルスケア情報は「すこやかライフサポートセンター」にネットワーク経由(現時点では携帯電話網)で集積され、慶應義塾大学医学部、看護医療学部、政策・メディア研究科が中心となって研究している医療解析論理「すこやか解析」にかけられる。そこから導き出されたデータを、自治体や保険福祉センター、スポーツクラブ、病院・診療所などに提供する。情報提供を受けた事業者は必要に応じて、ユーザーやユーザーの家族にサービスを提供するのだ。
とのこと。
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ 「時空間情報マイニングサービス」
ほとんど情報を見つけられなかったんだけど、情報大航海プロジェクトのWebサイトによると、
ユーザーが必要とする情報を場所や時間をキーとして検索し、リアルタイムな情報を基盤としてわかりやすく利用者に提供するサービスです。
とのこと。
株式会社モバイルジャッジ 「メガリサーチ」
ITMediaの記事によると、
メガリサーチは、人間が行う必要性の高いインタビュー型のアンケートを自動化し、インターネット上で大規模な調査を行えるようにしたシステム。時間を要する集計作業を自動化し、最大で10万人規模の調査をリアルタイムに集計することができるという。
もっと詳しい情報はないかと思って探してみたのだけど、株式会社モバイルジャッジのWebサイトすら見つからない。どういうことかと思って調べてみると、
モバイルジャッジは、2008年7月に、株式交換でトランスデジタルの完全子会社になりましたが、トランスデジタルは不渡りを出して 9月末で上場廃止。モバイルジャッジの経営状況は厳しいものだったようです。
とのことだった。なんだそれ・・・。
株式会社日本航空インターナショナル「新総合安全運航支援システム」
おそらく、社内向けのシステムなので、具体的にどのようなシステムなのか、まとまった資料を見つけることが出来なかったが、
富士通や東京大学と進めている新総合安全運航支援システムは、運航日誌、気象データのような過去から蓄積された膨大なデータと、機体に取り付けられた各種センサーによるリアルタイム情報を組み合わせた情報解析により、予防型の安全管理を可能にするシステム
とのこと。
株式会社ブログウォッチャー 「プロファイルパスポート」
プロファイルパスポートと言うWebサイトが公開されている。このサイトによると、
利用者の行動履歴を蓄積する事で利便性を高めているネット上の購買サービスやDVD録画機などの家電機器が登場しています。しかし、蓄積された行動履歴情報は、サービス間・機器間で流通することはありません。私たちは、行動履歴情報を「プロファイルパスポート」という一元的なデータベースに蓄積し、その情報を、さまざまなサービス事業者が自由に利用できるインフラを構築することで、「このサービスは自分のツボを知っている」と利用者に感じてもらえるようなサービスを提供したいと考えています。
とのこと、詳しくはプロファイルパスポートのWebサイトを見てください。
東京急行電鉄株式会社 「交通系非接触式ICカードを利用した連携サービス」
経産省「情報大航海プロジェクト」、自由が丘にて「盛り上がりマップ」の効果を実証によると、
新しい街づくりを実現するサービス「盛り上がりマップ」を、自由が丘駅周辺にて共同で試行し、同サービスによって街を訪れる人たちの滞在時間や回遊性の向上に効果があることを実証したと発表した。 「盛り上がりマップ」とは、街を訪れたモニターの行動や店舗内での様子、感想などを、モニターの携帯電話や各店舗のセンサー端末および専用ブログへの書き込みを通して収集し、自由が丘駅前に設置されたデジタルサイネージ(大型液晶ディスプレイによる電子看板)上などに表示するもの。これにより、自由が丘を訪れた人たち は、商店街各店舗の賑わいなどを、デジタルサイネージ上で知ることが可能となる。
とのこと。探したら、PASMOで自由が丘というWebページも見つけることが出来た。ただ残念ながら、この成果がこの実証のあと、どう活用されてるかは見つけることが出来なかった。
株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ「マイライフアシストサービス」
ユーザの行動履歴を蓄積することによって、様々な情報を提供するサービスで、具体的には「プレビューチャネル」「kanshin Airport」「ミツケ半島の大冒険」の3種類のサービスから構成されているとのこと。下記の資料が詳しいので見て欲しい。
株式会社キューデンインフォコム 「次世代解析技術を活用した携帯情報端末等による情報循環方式の健康管理」
情報大航海のWebサイトによると、
患者側の各個人の生活習慣に関する情報を、本人に負担を掛けない形で、適宜情報収集可能なネットワークを構築し、健康情報をデータベース化するとともに、各個人の情報を活用・分析し、適正なタイミングで適正な情報を医師・患者双方に提供することで、「情報薬」の効果を検証します。
とのことだけど、詳しい情報を見つけることが出来なかった。
株式会社角川マーケティング 「多言語対応動画アプリケーションプラットフォーム」
角川、動画サイト「kadoTV」を開設。複数言語での字幕付与が可能という記事によると、
角川マーケティングは、経済産業省が実施する「情報大航海プロジェクト」の一環として、字幕付与および動画同一性検知技術を活用した動画サービス「kadoTV(カドテレビ)」を開設した。 「kadoTV」は、チームラボの実証サービス「サグールテレビ」の技術を基盤に、複数の動画共有サービスの動画検索機能と、字幕付与機能を実装したサービス。
とのこと。ただし、2011年8月29日現在、kadoTBにアクセスすると、
kadoTV [ カドテレビ ] は、現在リニューアル作業のため一時休止中です。ご利用の皆様にご迷惑をおかけいたしますが、何卒ご了解いただきたくお願い申し上げます。
と表示されてしまう。今後に期待したい。
株式会社エス・ピー・シー 「地域活性化を支えるe空間サービス ーぷらっとplatー」
情報大航海のWebサイトによると、自由が丘、松山、福岡にて実証実験を行ったようだ。
〔自由が丘〕来街者の行動、街の出来事や賑わい等のログから人や街の姿を可視化し、来街者の街体験の深化や滞在時間の延長を図ります。 〔福岡〕旅行者の回遊性を上げる情報提供サービス(モバイル回遊支援など)を開発し、観光客の回遊性の向上を図ります。 〔松山〕観光客向け観光情報サービス(プッシュ型情報配信、あなただけ情報)を開発し、観光客の利便性の向上を図ります。
ただし、この実証実験の知見がどうなったかは良くわからなかった。
株式会社ジー・サーチ 「「ここなら」コミュニケーションサービス」
ジーサーチのWebサイトによると六本木にて実証実験が行われたらしい。ただし、具体的な実験内容についてはわからなかった。
メディアラグ株式会社 「異業種連携IDによる流通サービス」
経済産業省「情報大航海プロジェクト」でヘルスケア家計簿サイト『ハイジアス』を構築によるとメディアラグ株式会社が二次公募を行い、株式会社インテージにがヘルスケア家計簿サイト「ハイジアス」をリリースしていた。
株式会社インテージは散在.comの運営会社であり、デジタルレシートとヘルスケア家計簿サイトの連携の実験を行っていたよう。残念ながら、現在は閉鎖されている。
おわりに:いくつか個人的に思ったこと
各サービスのコンセプトは結構面白い、かも
あくまでも個人の感想として、各サービスのコンセプトは面白いなーって感じた。ビジネスにつながってるのが皆無ってのが残念(もしかしたらあるのかも知れないけど)だけれど、各コンセプトはそれぞれ面白いと思うので、今後に期待したいところ。
例えば、沖電気の「ラダリング型検索サービス」は情報を探索する手法として方向性自体は非常に面白いと感じた。これを前面に打ち出したサービスは難しいかも知れないけど、リクルートのサービスで情報検索方法のひとつとして組み込まれると面白いんじゃないかなと思います。
2011/9/6 追記:ラダリング型検索サービス「ラダサーチ」は、現在リクルート様の住宅情報サイト Suumo で、 「住みかえ診断サービス」で使われているそうです。こういった新しい検索方法がどんどん実用化されることを期待しています。
国債医学情報センターの「すこやかライフサポートサービス」や株式会社キューデンインフォコム の「次世代解析技術を活用した携帯情報端末等による情報循環方式の健康管理」のはCMUのQoLTでやってるHealthKioskっぽい印象を受けたけど、説明を読んでみるとそれとは違うみたいだ。日本は、世界でも類を見ない高齢化社会を迎えているので、こういったプロジェクトを積極的に進め、いかに健康に過ごすか、医療費を削減するかを真面目に考えなければならない。プライバシー云々の批判はあるかもしれないが。
実証の成果をどうつなげるか
最近読んだ奥出直人さんの本でデザイン思考の道具箱というのがあるんだけど、その中に「R&DではなくR&D&D&Dだ」と書かれていた。研究(Research)して、開発(Development)して、実証(Demonstration)して、普及(Dissemination)させる、という一連の流れなんだけど。情報大航海プロジェクトは、実証までは出来ているので、あとは普及に課題がある気がする。国の研究開発プロジェクトでも、普及まで見据えた運営が出来るといいよねーとか思った次第。
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ドメイン管理がお粗末
情報大航海プロジェクトのドメインについて。プロジェクト期間中は、igvpj.jpと言うドメインを利用して情報公開を行っていたみたいだけれど、プロジェクト期間終了後ドメインが失効し、第三者の手に渡っている。様々なWebサイトから情報大航海プロジェクトのWebサイトに対してリンクが張られているのに、この対応はお粗末と言わざるを得ない気がする。
もっとも、国の予算って年度毎に使える予算が決まっているので、プロジェクト期間終了後もドメインを維持するのはなかなか難しいんだけれど。このあたり、何かしら良い方法があるといいんですけど。
大企業ならではの事情
成果が出てないわけではない思うんだけど、大企業ならではの事情があってか、情報が公開されていない実証サービスが多い。例えば、某大企業では、外部に情報ひとつ公開するのにも大量の書類を作成する必要があると聞く。せっかく税金を使って面白いサービスを作るんだから一般の人が成果に関する情報を容易に得られるようにして欲しいなと言う気がします。このあたりはちょっと残念です。こういったことを防ぐ方法としては、国と一緒に子会社を作るとかすればよかったんじゃないかなー?とか思ったりもする。
適当に言ってるだけなので実際には色々難しいのかも知れないけど。