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バイオリンと山、自転車をこよなく愛するkurのチラシの裏。たまには技術的なことを書いたりするかも知れません。

クラシック音楽オーケストラとゲーム音楽オーケストラの違い

クラシック音楽を演奏するオーケストラとゲーム音楽を演奏するオーケストラの違いを挙げればキリがないんだけど、大きな違いのひとつとして、譜面に関する点が挙げられると思う。

例えばクラシック音楽であればスコアやパート譜が商品として売られている。ところがゲーム音楽の場合、一部の例外はあるものの、お金を出せば楽譜が手に入る、という簡単な話ではない。ガーデンオーケストラでは、演奏会のための譜面を、自分たち(正確には、譜面を作成してくださる有志を募り、譜面の作成をお願いしているのですが)で作成している。

この過程で、譜面のことに関して気をつけないといけないなと思った点がいくつかあるので書き留めておく。なお、これは運営の中に譜面を作成できる人が居た場合でも、同様のことが言えると思う。

権利者を最大限に尊重する

まず、大前提として、私達は、権利者を最大限に尊重したいと考えている。可能か、不可能かと言うレイヤーで話をするのであれば、権利元に内緒でこっそり演奏会を行う事だって出来なくはないだろうし、演奏会後に何か言われたらオーケストラを解散して一目散に逃げる事もできるだろうな、と思う。でも、それはしたくなかった。だからガーデンオーケストラでは最初、株式会社スクエア・エニックスに演奏会開催の可否や、FINAL FANTASY VIIIのオーケストラ譜面を販売してもらえないか、もしくは貸してもらえないかを問い合わせたことがある。過去に、株式会社スクエア・エニックス主催の演奏会などでFINAL FANTASY VIII楽曲を演奏したことがあるため、所持しているであろうと判断したためだ。しかし、残念ながら現在、譜面の外部への貸出や販売は一切行なっていない。演奏会を行うことは構わないが、譜面はそちらでなんとかしてくださいとの事であった。

また、原曲、作曲者さんの意図を可能な限り尊重したいと思っている。これは私自身がものを作る事でご飯を食べているからかもしれないけど、たとえ無料で配布しているiPhoneアプリであったとしても、自分が作ったものを粗末に扱われていると、やはり悲しい。

現在はフリーカルチャーという思想もあるのだけれど、アレはフリーカルチャーの世界で閉じているからフリーカルチャーなのであって、商業的なものを強引にフリーカルチャーの世界に引きずり込んでくる、またはその逆ってのは話が違うと思う。文化の健全かつ持続的な発展を後押しするためにも、お互いに気持ちよく活動していく必要があると思う。

アレンジャーさんとのコミュニケーションを大切にする

私たちは譜面を作ることができないので、譜面を作るためには、譜面を作ることのできるどなたかにお願いする必要がある。ちなみに私は、譜面を作る人の事をアレンジャーさんって呼んでいるんだけど、人によってはオーケストレーターって呼んでたり、浄書屋さんって呼んでたり、他にもいろいろ呼び方があるらしい。とりあえずこのブログの中ではアレンジャーさんって書く。

アレンジャーさんは、譜面を作る事を生業にしているわけではなくて、基本的にはボランティアで手伝ってくださっている。だから、譜面作成にあてられる時間には限りがあるし、私達としても強制する事はできない。だから、アレンジャーさんとのコミュニケーションをしっかりとって、どれぐらいの期間でどれぐらいの量ができるのか、思った以上に時間がかかってるいるといった情報を気軽に密にやり取りしていく必要があるんだなと感じた。

また、私も今回初めて知ったのだけれど、一言にアレンジャーさんと言っても、得意分野がそれぞれ違って、できる事、できないこと、苦手なこと、得意なことがあるらしい。例えば、音源を聞いて音を取ることができても、オーケストラの各楽器に割り当てることが得意でなかったりする人も居るし、MIDIデータとしてオーケストラの各楽器に音を割り当てることができても、奏者が読みやすい印刷可能な譜面を作ることが苦手な人も居るらしい。M3(音楽をメインに取り扱う同人即売会)などのイベントで自分の作った音楽を販売している人でも、実際に人間が演奏する音楽を作った経験に乏しかったりする。吹奏楽の譜面なら作ったことがあるけれど、オーケストラの譜面を作ったことが無い、と言う人も居る。

私は経緯としては詳しく知らないのだけれど、ガーデンオーケストラでもデータを作るのが得意な人と、印刷可能な形の譜面を作る人との間でやり取りして共同作業が行われたと聞いている。このように異なるスキルセットを持った人同士で連携してもらって譜面を作成してもらうのも、ひとつの手なんだなぁと思った。ただ、こういうことをアレンジャーさん同士で自主的にやってくれるのは、とても素晴らしいと思うのだけれど、本来であれば運営として、アレンジャーさんが少しでも気持ちよく、仕事しやすく、少しでも良いものを作れる環境を整備するのって、運営の役目なのかなぁとも思ったりする。もっと編曲者さん達と密にやりとりできる関係・環境をつくれると良いなと思う次第。

さらに、譜面は最初の版が完成版と言う事はほとんどなく、実際に作った譜面をみんなで合奏してみると、いろんな問題点が見つかったりする。音域的に難しい音があったり、人間が演奏するためには若干難しいフレーズがあったりする。ガーデンオーケストラでは、こういった場合に、演奏者さんから意見を吸い上げてアレンジャーさんにフィードバックする仕組みになっているんだけど、このあたりも、しっかりコミュニケーションを取ってやっていく必要があるな、と感じている。

指揮者さん、演奏者さんに理解を求める

最後になってしまったんだけど、これがわりと大事だなって思った。

これまでオーケストラ経験がそれなりにあっても、譜面を作りながら合奏するオーケストラに参加したことが無い人ってわりと多いと思う。一般のクラシック音楽を中心に演奏するオーケストラと、ゲーム音楽を演奏するオーケストラで、演奏者側から見た大きな違いはまず、譜面のアップデートがあると言う点だと思う。この点について予め説明しておかないと、また新しく譜面配布されるの?って不満の種になってしまう可能性がある。どうせ譜面が変わるなら、あまりまじめに練習しなくていいや、とか。

だけど、譜面のアップデートには、演奏者の協力が必要不可欠です。バイオリンパートだけなら、私自身が弾いているので、ここ難しいなとか、これは無理だなとか、これはちょっとおかしいなとか言えるんだけど、他のパートの事になると全くわかりません。なので、良い演奏のためには、みんなで譜面を良くしていくことが必要ですが、このあたりクラシック音楽を演奏するオーケストラだとまず無いと思うのです。一度の説明で理解してもらうのは難しいかもしれないけど、演奏会に向けてちょっとづつでも意識を揃えて行けたらいいなーと思う次第。

おわりに

ゲーム音楽を演奏するオーケストラはクラシック音楽を演奏するオーケストラとは勝手が違うところが多い。庭オケではそのあたりきちんと説明できていなかった節があって申し訳なく思っている。ただ、こういった点があるからゲーム音楽の演奏は大変だって考えるのではなく、自分たちで音楽を作っていくプロセスを含めて楽しんでいけたら、と思う次第。

というわけで、下記の通り演奏会やります。ご興味のある方はぜひお越しください。

日時:2013年5月18日(土)昼公演 会場:ティアラこうとう 曲目:植松伸夫作曲 交響組曲「FINAL FANTASY VIII」より 指揮:後藤正樹 入場無料・全席自由

詳細は下記のウェブサイトにて。 http://gardenorchestra.com