未踏に採択されるか,採択されないかを決める大きなポイントは,いかにして良いアイデアを出すかっていうところにあると思います.「上手に提案書を書くのが大事だよ」と言う人もいるかもしれませんが,私の場合は未踏に応募するために使った時間のうち,7割ぐらいを,アイデアを練ることに使ったんじゃないかなーと思います.
というわけで,どんなふうにして未踏に応募するためのアイデア,Webjigを思いついたかについて書いてみます.
アイデアの出し方
未踏に応募する人のパターンは以下の2つだと思います.
- 作りたいものがあるから,未踏に応募する.
- 未踏に応募したいから,作りたいものを考える.
1に該当す人は,その想いを提案書にぶつけるだけなので何の問題もありません.しかし,残念ながら私はパターン2でした.つまり,何を作るかを考えるところから始めなければなりませんでした.私は未踏に応募するにあたり,以下のような手順でアイデアを出しました.
- 情報収集し現状を把握し,問題点を発見する
- 見つけた問題点を検討する
- 解決可能性を検討する
以下で,それぞれについて説明していきます.
1.情報収集し現状を把握し,問題点を発見する
私の場合は,もともとWebユーザビリティに興味がありました.ただ,Webユーザビリティって一口に言っても,ものすごく広いです.なので,とりあえずのWebユーザビリティの分野を手当たり次第勉強してみました.勉強する方法って言うのは,人によって様々だと思うのですが,書籍だったり論文だったり,セミナーや勉強会に参加したり,インターネットだったり,テレビだったり,人との会話などが考えられます.
ちなみに私の場合はというと,本や論文が中心でした.日本語で書かれている書籍や論文はもちろん,英語の論文にも目を通しました.その業界での有名人,たとえばユーザビリティ分野でいえば,ドン・ノーマン氏,ヤコブ・ニールセン氏,黒須正明氏等の著書や論文にも,できる限り目を通しました.また,同時にWebユーザビリティからちょっと離れて,ソフトウェアのユーザビリティだとか,家電製品のユーザビリティについての書籍や論文にも目を通しました.(中にはアブストラクトだけしか読んでない奴もありますが)
最近は,Google Scholar等がありますし,本についても大抵の本はAmazonで手に入ります.Amazonで購入するのを躊躇うような高価な本であっても,大抵の本は図書館にあります.しかも,最近の図書館はインターネットで蔵書が検索できますから文献探しも楽なもんです.そんな感じで手当たり次第勉強していると,自分自身の頭の中に.対象とする分野の現状と課題,問題点がだんだんわかってきます.今までにこういうことがやられている,こういう問題がある,こういうソフトがある,など.
で,私が見つけた問題点は何か,おおざっぱにいうと「良いWebサイト/Webアプリを作るための現実的な手法,方法論が殆ど存在しない」と言うことでした.どういうことかって言うと,Webサイトを良くしようって思ったときに,どこが悪いのかを見つけるのがすごく難しいっていうことです.
例えばあなたが体調が悪いとき,お医者さんに診てもらうことがあるんじゃないかと思います.お医者さんは,あなたを診察してから対処法を決めてくれますよね.そうしないと,どんな病気かわからないからです.Webサイトでも同じはずなんですが,これまではWebサイトを診察するための手法が,ほとんど存在しませんでした.
もちろん,Webサーバログを解析したり,ユーザテストを行ったり,方法はいくつかあります.ただ,ログからの解析だけでは限界がありますし,ユーザテストを行おうと思うと莫大なコストが必要になってしまいます.
2.見つけた問題点を検討する
次に,その問題点を解決することで,どれぐらい嬉しいのか,誰が嬉しいのかを考えます.
どれぐらい嬉しいのか
まず,私はソフトウェアを開発して問題点を解決するべきかどうかを判断する基準って,
開発費用+導入費用+運用費用 < 効果
だと思っています.
例えば,今まで1時間かかっていた作業が,ソフトウェアの導入によって1秒で終わるようになった.これは大変喜ばしいことだと思うのですが,その作業の実施頻度はどれぐらいだったのか?っていうことが気になります.
作業員1人の時給を仮に1000円としますと,ソフトウェアの開発で節約できる費用は,一回の作業につき約1000円となります.ソフトウェア開発に500万円かかっていたとすると,5000回ぐらい作業をすれば開発費をペイできる計算になります.
でも,この作業を年に何回するんでしょうか.もし月に一度しかしない作業であれば, 開発費をペイするのに100年以上かかることになります. というわけで,問題点を解決することで,どれぐらい嬉しいのかっていうことを,慎重に判断する必要があります.
私の問題点であれば,良いWebサイト/Webアプリを簡単に作ることができれば,様々な効果が考えられます.いくつか例をあげます.
- 通販サイトであれば,購入頻度,および売上アップ
- 企業のサイトであれば,ブランドイメージアップ
- Webアプリであれば,使いやすくすることで,サポートコストダウン
- などなど
良いWebサイト/Webアプリを作る事による効果ってのは,様々です.
誰が嬉しいのか
たとえば,その問題点を解決したらGoogleとか,MSNとか,Yahooとかの検索エンジンを作っている人が嬉しい.そんな問題点を私が解決したところで意味がありません.もちろん,Googleから予算を頂いて研究するとかであれば,やる価値はあるのかも知れませんが, 未踏のお金(つまりは税金です)を使って問題点を解決する必要があるのか?と言えば疑問です.
つまり,見つけた問題点を解決することで,誰がどれぐらい嬉しいのかを自分なりに評価して,未踏プロジェクトの目的に合うかどうか,を検討する必要があると考えています.で,検討を行った結果,いけそうだと思ったら,解決可能性を探っていきます.
ちなみに,私のプロジェクトの場合は,主なユーザとしてWebサイト開発者・運営者などを考えていました.
3.解決可能性を検討する
せっかく見つけた問題点ですが,自分で解決できなければ意味がありません.とはいえ.簡単に解決できそうな問題なら,とっくの昔に誰かがやってます.なので,解決できない問題に関しては諦めも肝心だと思います.
解決可能性を検討する時に大事なのは,ひとつの大きな問題は複数の小さな問題から成り立っている可能性があることを意識すること.何が問題となっているせいで,この問題が問題が存在するのかを考えていくことだと思っています.こうする事によって,自分に解決できそうなサイズまで,問題を分解していきます.
で,解決可能なサイズまで問題を分解したら,実際にそれぞれの問題を解決する方法を探っていくわけですが,この作業は,ひらめき的な要素が必要になってきます.私の場合,これまでの経験から,何かと何かを組み合わせること,別分野の知識を利用することによってひらめくことが多いです.例えばWebjigの場合,組み込み開発のノウハウを強引にWeb開発の世界に持ってきています.
で,いけそうだと思ったら,大まかな設計をしてみて,どこが技術的ハードルになりそうか,そのハードルは解決可能かって言うのをひたすら考える作業に入ります.
こうやっていくと,見つけた問題点が,実際に解決可能かどうかが見えてくるわけです.もちろん,実際に作るまでは本当に解決可能かどうかは見えてこないんですが.
で,ここまでくれば,申請書類を作成するだけです.
まとめ
この,申請書類に入れそうなアイデアの出し方なんですが,1つの「未踏に採択されるアイデア」を出すためには,10ぐらい「解決することで人の役に立ちそうな問題点」を見つける必要があって,そのためには100ぐらい「問題点」を見つける必要がある.で,そのためには1000ぐらいの「情報収集」が必要だと思っています.
逆に言えば,1000ぐらい勉強すれば1つぐらいは,良いアイデアが生まれるんじゃないかっていうこと.「未踏に応募したいけど,アイデアがない」と言っている人の話を結構聞くんですが,アイデアを出すために,特に何もしてない人が多いんじゃないかなーと思います.とりあえず,興味のある分野の,本やら,論文やらを読み漁ってみれば良いんじゃないかなー,とか思ったりします.