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バイオリンと山、自転車をこよなく愛するkurのチラシの裏。たまには技術的なことを書いたりするかも知れません。

未踏開発成果報告 ~2. 採択されるまで(書類作成・面接)~

前回のエントリで,未踏に応募するためのアイデアを作る方法について述べましたので,本エントリでは申請書類作成と面接について書いていきます.

採択される書類を書くためにはどうしたらいいのか,面接で何に気をつけたら良いのか.少しでも参考になれば幸いです.

書類作成と面接のそれぞれについて説明する前にまず,未踏に採択されるまでのプロセスについて知らなければなりません.未踏採択までのプロセスは以下のようになっています.

  1. PM選び
  2. 書類作成
  3. 面接

未踏には複数のPMが存在します.未踏に応募する人は,その複数のPMの中から自分の応募内容に最も適したPMに対して応募することになります.

そして,自分が選んだPMに対して応募書類を作ります.これは「自分がこういうことをしたいんだ」ってことを書き綴ったものです.

で,PMは応募書類の中から,よさそうなものをピックアップして,応募者を面接に呼びます.以下で,それぞれについて説明します.

PM選び

私が応募した2008年度上期の場合,PMは下記の9名でした.ちなみに,PMは年度によって変わるものらしいです.

  • 石川 裕PM(東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授)
  • 竹田 正幸PM(九州大学大学院 システム情報科学研究院 教授)
  • 田中 二郎PM(筑波大学大学院 システム情報工学研究科 教授)
  • 畑 慎也PM(サイボウズ・ラボ株式会社 代表取締役社長)
  • 古川 享PM(慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 教授)
  • 松原 健二PM(株式会社コーエー 代表取締役執行役員社長COO)
  • David j. FarberPM(Distinguished Career Professor of Computer Science and Public Policy Carnegie Mellon University)
  • 勝屋 久PM(Venture BEAT Project主宰)
  • 加藤 和彦PM(筑波大学大学院 システム情報工学研究科 教授)

で,各PMは,自分の興味分野,公募対象プロジェクトについて,IPAのサイトで公開してますので「自分がやりたいこと」と「PMの専門分野」があうかどうかを考えて,応募することになります.ちなみに同一のテーマで3人のPMに応募することが出来るようになっており,私の場合は,下記のPMに応募させて頂きました.

  • 第一希望:畑PM
  • 第二希望:勝屋PM
  • 第三希望:田中PM

応募するPMを決めたら実際に書類を作成する作業に入ります.

書類作成

各PMは,IPAのサイトで「公募対象プロジェクト」というものを公開しています.さらに,私を採択して頂いた畑PMの場合ですと「提案テーマの記入要領」やら「審査基準」と言ったものが公開されています.

が,そんなものよりもまず考えなければいけないのは「書類の目的は何か?」と言うこと.そんなのは明らかで,未踏に応募する書類なんですから,未踏に採択されることが目的です.当然です.

そこで,「どんな書類なら,採択したいと思うか?」「どんな書類なら,採択したくないと思うか?」について考えます.常にそれを考えながら,書類を作成していきます.私はこの段階で,PMの立場になっていくつかの仮定を立て,どんな書類を書けばよいかを考えました.

ちなみに,書類を作成する上で注意したのは以下の点.

  • 背景・問題点を明確にする
  • ソフトウェアの新規性・有意性を明確にする
  • 実現可能性を明確にする
  • 懸念事項を明確にする

以下で,それぞれ説明していきます.

背景・問題点を明確にする

ソフトウェアの開発が必要である理由について,論理的・客観的に述べます.

今現在,目的を達成するためにどのような手法が取られていて,どのような問題点が存在するのか.この部分がないと,何のためにソフトウェアを開発するのかわかりません.

ソフトウェアの新規性・有意性を明確にする

開発しようとしているソフトウェアが,既存のソフトウェア・手法と比べて,どこが新しいのか,どこが嬉しいのかって言うのを述べました.

そして,このソフトウェアが開発されたとき,どんな効果が期待できるかについて,できる限り客観的に書きます.

実現可能性を明らかにする

実現しようとしているソフトウェアを,本当に開発できる可能性がどれだけあるのかについて述べます.

例えば,「今からアルゴリズムを考えます」って言う場合,良いアルゴリズムが考えつかなかったらどうなるの?と言う疑問が当然生じます.でも,「こういうアルゴリズムで,この部分がこうなるから,こうなる見込みがあります」って言われたら,「あぁ,なるほど」って思ってしまうような気がします.

また,ソフトウェアの規模見積もり等を行い,これぐらいの機能なら,未踏の期間・予算で開発できるということを記述します.

懸念事項を明確に

私は,これが一番大事なんじゃないかと思っています.懸念事項って言うのはつまり,デメリットです.

未踏に提案するわけですからメリットがあるのは当たり前なんですが,メリットばかり書いてあると疑いたくなるものです.

なぜなら世の中のほぼすべての技術はトレードオフが存在します.例えば,処理速度が速くなるけど,消費電力が高くなるとか,消費電力が低くなるけどサイズが大きくなるとか.良いことだらけの技術ってのは,あんまり存在しないような気がします.

でも,提案書類にデメリットについても書いてあれば,「ちゃんと検討してるんだなぁ」とか思ってもらえるんじゃないかなとか思います.しかも,もしPMがデメリットの解決策を持っていたならば,それはデメリットでは無くなります.実際私も,プロジェクト期間中に多くのアイデアを畑PMから頂きました.

面接

書類を作成して応募すると,PMから面接に呼ばれます.面接では,自分の提案したソフトウェアについてプレゼンを行いました.

ここで考えなければいけないのは,やはり「面接の目的は何か?」と言うこと.もし,提案内容に魅力がないのなら,書類審査の時点で落とされているはずです.と言うことから私を面接に呼んでいただいた目的を仮定し,以下の点に気をつけて面接に臨みました.

  • 真面目・誠実そうに振る舞う
  • 実現可能性をアピールする

前者については,採択者と言うのは世間からは「あのPMの弟子」みたいな目で見られてしまいます.ですから,技術力が同程度の不真面目そうな人と真面目そうな人が同じ提案を持ってきたら,真面目そうな人を採択するんじゃないかなぁと思いました.

とはいえ,真面目かどうかなんて小手先の技術でどうにかなるもんでもないので,とりあえずスーツを着て,真面目で誠実そうな格好で面接に臨みました.

後者については,提案するソフトウェアが開発期間的・技術的に実際に実現できるかどうかについて説明しました.

開発期間については,開発計画をガントチャートで説明しました.技術的な面についてですが,いくつかの技術的に困難そうに思える箇所について,実際に動く小規模なデモを用意し,このように,技術的には実装可能なので,これを拡張していけば提案書通りのものが実現できます,と言うことについて説明を行いました.

まとめ

書くまでもありませんが書類作成・面接の目的はPMに採択してもらうことです.採択してもらうためにはまず,「採択したい/採択してもいい」と思ってもらえなければなりません.そのためには,どんな書類を書けばいいか,面接で何をアピールすれば良いかを,PMの立場になってしっかり考えて,書類作成・面接に臨む必要があると思います.